羊水検査で陽性=中絶?立ち止まって考えてみませんか?

染色体異常の有無を確認する出生前診断を受ける理由は人によってさまざまです。

例えば「不妊治療の末に授かった子どもなので、出来るだけ事前に準備しておきたい」「高齢出産はダウン症の可能性が高いと聞いたので、なるべく早く検査しておきたい」「妊婦健診での超音波検査で首の後ろのむくみを指摘されたので、安心して出産を迎えたい」などです。

出生前診断の中でもよく知られているのは、羊水検査です。

羊水検査は、子どもの状態を知ることで迎える準備を進めることができる一方で、安易な妊娠中絶を助長するなどの厳しい意見もあることも事実です。

妊婦さんは、羊水検査陽性の結果を受け取った場合、産みたい、家庭の状況的に産めないなど矛盾した気持ちの中で葛藤します。

このコラムでは「妊娠中絶とは何か」「羊水検査を受け、妊娠中絶を選択する前に考えるべきこと」「妊娠中絶を行った前後にできること」をご説明します。

妊娠中絶とは

妊娠中絶とは、何らかの要因で胎児が死亡することを指します。特に人為的に中絶を行うことを「人工妊娠中絶」と言います。

法律上、人工妊娠中絶は基本的に認められておりませんが、母体保護法という法律により経済的な理由、健康上の理由など特定の場合のみ人工妊娠中絶が可能です。

人工妊娠中絶が可能な時期は21週6日までです。

22週以降はいかなる理由があっても人工妊娠中絶をすることはできません。

人工妊娠中絶の方法

妊娠週数に応じて人工妊娠中絶の方法は異なります。

妊娠初期(妊娠12週以前)では、掻爬法(掻き出す方法)または吸引法(器械で吸い出す方法)を利用します。

妊娠中期(12週以降)では、時間をかけて子宮口を開き、薬で人工的に陣痛を引き起こして中絶をする方法が一般的です。

羊水検査は、通常15週〜16週以降に行われるため、羊水検査を受検した方全員が中期中絶の方法を用いることになります。

体に大きく負担のかかる方法なので、何日間か入院する可能性もあります。麻酔をするため痛みはありません。

胎児の扱い

妊娠12週以降の人工妊娠中絶は、正確に言えば人工死産になります。

法律上、手術後7日以内に死産届を提出し、埋葬許可書を役所から受け取り、埋葬する必要があります。

提出期間を過ぎると理由書が必要になり、場合によっては罰金を払う可能性もありますので、気持ちはお辛いと思いますが、早めに提出しましょう。

人工妊娠中絶にかかる費用

人工妊娠中絶にかかる費用は妊娠初期の中絶で約10万円、妊娠中期で約40万円以上と言われています。

妊娠中期の人工妊娠中絶の費用には、入院費用や胎児の届出処理の手数料などは含まれていない場合もあります。

この時期に人工妊娠中絶の処置を受けられる場合は、医療機関に費用を確認しましょう。

出典元:
公益社団法人日本産婦人科医会「人工妊娠中絶について教えてください。」
(2019年7月5日最終閲覧)
佐々木悦子産婦人科クリニック「出産できない方」
(2019年7月5日最終閲覧)
よりそうのお葬式「死産の赤ちゃんの供養や、葬儀、火葬の方法について」
(2019年7月5日最終閲覧)

羊水検査とは

羊水検査とは胎児細胞が含まれている羊水を採取し、その後、胎児細胞を培養、顕微鏡で分析する検査です。

検査対象は染色体異常全般です。

精度はほぼ100%と高い確定診断ですが、羊水を採取する際、お腹に羊水穿刺針を刺す影響で、流産(0.3%の確率)や破水、子宮内感染症などのリスクが伴う検査です。

羊水検査のリスクに関しては以前コラムで詳しく紹介しておりますので、ぜひご覧ください。

羊水検査のリスクとは?リスクを避けるためにできる3つのこと

確定診断には他にも絨毛検査があります。

羊水検査「結果は陽性」中絶を選択した方の苦悩

出生前診断の種類によっては、検査を受けた人の9割が中絶を選択しているという事実もあり、出生前診断は「安易な中絶に繋がる」「命の選別である」と批判する声もあります。

しかし、本当に中絶を選択した妊婦さんたちは安易に中絶を選択しているのでしょうか。

やむを得ず中絶を選択した妊婦さんたちの中には、精神的な負担が大きく、うつ状態に陥ってしまうほど苦しんでいる方もいます。

この章では、陽性の結果を受け取った方が中絶の選択をする際に直面する苦悩についてご紹介します。

陽性であるとわかってから決断をするまでの時間はとても短い

中絶の処置が可能な期間は法律で決められており、妊娠21週目6日目までです。

また、羊水検査を受けることができる期間は妊娠15週から16週以降で、検査結果が出るのに約2週間から4週間ほどかかることを考えると、決断するまでの時間は少ないです。

中には時間の関係で十分に話し合いができずに、以下の様に話す方もいます。

「赤ちゃんを産んでいいのか、諦めていいのか、正解を探すけど、分からない。 夫婦で納得したのかしてないのかわからないまま、その時がきちゃったという感じです。」
出典元:
出生前検査 “納得できる決断を支える”|けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本

妊娠15週は胎動が始まる時期

羊水検査で陽性の結果を受けた人たちは、短い時間のなかで子どもの将来や家族の将来などを考えた上で、産むか中絶かを決断します。

不安が大きい中、さらに夫婦を苦しめるのは胎動が始まることです。

たまひよの調査によると、この時期(妊娠4ヶ月〜5ヶ月)から胎動を感じ始める方は約半数以上です。

胎動によって、赤ちゃんが必死に生きようとしていることを強く感じてしまい、どんな理由があれども、中絶を視野に入れてしまったことを後悔する妊婦さんもいます。

中絶をすることによる精神的負担

愛しい我が子を中絶するという選択は、妊婦さんにとっても辛く苦しい選択です。中には、中絶後に部屋に閉じこもるようになってしまう人もいます。

また、以下の様に何かあったらメンタルクリニックを受診する様に言われ、産婦人科医師の先生からは十分なケアを受けることができなかったと語る方もいます。

「中絶したら、もう産婦人科には用がなくて、『自分たちで心のケアはしてください』ということかと思いました。誰かに手を差し伸べてもらいたいたかった。」
出典元:
出生前検査 “納得できる決断を支える”|けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本

中絶をした女性の体はさまざまな変化が起こり、その変化が原因で心に負担を強いることもあります。

中絶をしても母乳が出ることが、さらに妊婦さんを追い詰めてしまうケースもあります。

搾乳して赤ちゃんに捧げることで落ち着く方もいれば、母乳が出なくなることで心が落ち着く方もいるので、妊婦さんごとにサポートの形は異なります。

NHKスペシャル取材班の出生前診断について著書のインタビューで聖路加国際大学の堀内教授は以下の様にアドバイスしています。

「何か助けてほしいことがあったら、退院後でも母乳マッサージの指導どをしてくれる助産院やクリニックの母乳相談室に電話で相談してみてもいいかもしれません。体の不調を緩和する具体的なアドバイスを受けることができます。」
出典元:
NHKスペシャル取材班 (著), 野村 優夫 (著)「出生前診断、受けますか? 納得のいく「決断」のためにできること (健康ライブラリー)p199〜220」
(2019年7月11日最終閲覧)
出典元:
たまひよ「胎動はいつから?どんな感じ?性格との関連性はある?」
(2019年7月11日最終閲覧)

中絶を選択する前と後にできること

残された少ない時間のなかで何ができるのか、またもし中絶を選ばざるを得ない場合、精神的なケアをしていくためにできることをまとめました。

①染色体異常をもつ子どもの情報を集め、納得できる決断をする

羊水検査の結果が陽性の場合、誰でも動揺してしまいます。またこの時期は胎動も始まり、必死に生きようとしている子どもを肌で感じるようになり、罪悪感を強く感じてしまう方も多いです。

情報を集めることは、羊水検査を受ける前でもできますので、可能な限り早い段階から情報を集めましょう。

情報収集の際に便利なサイトの情報をリンクと共にご紹介しますのでぜひご活用ください。

インターネット上に存在するピアサポート施設「ゆりかご」

「ゆりかご」

ゆりかごは、出生前診断で病気や障がいと共に生きる子どもの将来について、知りたい人と伝えたい人をつなげる無料のマッチングサービスです。

ゆりかごは出生前診断を受け、産むかどうか迷っている方が、自律的に将来を選択できる社会を目指しています。

そのため、「同じような境遇にある仲間が助け合って課題を解決する活動」のことを指す、ピアサポートが必要であると考えています。

医療関係者以外にも、障害をもつご本人やそのご家族、障害や病気を理由に妊娠中絶を選択された方もピアサポーターとして登録されています。

もし、不安なことを誰かに聞いてもらうことで頭が整理され、前向きになれることもあります。心配なことがあれば活用してみるのも手かもしれません。

染色体異常をもつ方の支援者団体

ダウン症候群(21トリソミー)の支援者団体「日本ダウン症協会」
エドワーズ症候群(18トリソミー)の支援者団体「18トリソミーの会」
パトー症候群(13トリソミー)の支援者団体「13トリソミーの子供を支援する親の会」

染色体異常ごとに、該当の染色体異常をもつ方の支援者団体があります。

活動内容はそれぞれの団体によって異なりますが、日本ダウン症協会などではダウン症の子どもを育てている相談員さんが常駐しており、相談に乗ってくれたりもします。

ホームページ上にも、それぞれの疾患について情報が乗っているため参考になります。

遺伝カウンセリングを行う臨床遺伝専門医一覧「全国臨床遺伝専門医・指導医・指導責任医一覧」

「全国臨床遺伝専門医・指導医・指導責任医一覧」

遺伝カウンセリングとは、臨床遺伝専門医と呼ばれる、臨床遺伝学の研修を3年以上行い、遺伝カウンセリングの経験を積んだ専門医によるカウンセリングのことです。

遺伝カウンセリングの目的は、医学的な知識をわかりやすくお伝えし、自らの力で医療技術や医学情報を利用して問題を解決して行けるよう、心理的なサポートを含めた支援を行うことにあります。

そのため、特定の考え方を押し付けることなく、基本的には聞かれたことに答えながら、妊婦さんの考え方を固めていく様なカウンセリングを実施してくれます。

予約が取りづらい可能性もありますので、早めに予約をしておくことをおすすめします。

②中絶後に苦しみや辛い気持ちを誰かに吐き出す

流産や死産、新生児死亡を経験されたご両親やご家族をサポートすることを目的に活動している「天使の保護者ルカの会」という団体があります。

こちらの団体では現在でも月に一度人工妊娠中絶を体験した方々が集まるお話会を開いていたり、人工妊娠中絶を経験された方のカウンセリングを行なっています。

お話会では同じ境遇の方が集まり、お菓子を囲んで気軽にお話しする時間を作ることができます。

カウンセリングでは周囲の人とうまく話せない、家族との関係が壊れてしまった、亡くなった子どものことを考えると涙が止まらないなど、様々な悩みについて話を聞いてもらえます。

カウンセラーは助産師や社会福祉士さんなどが在籍しています。

ご夫婦が納得できる決断をすることが何よりも大切です

羊水検査に対しては「命の選別」「安易な中絶の助長」「生きる権利の冒涜」などさまざまな意見や批判があることは事実です。

しかし、大切なのはご夫婦で納得できる決断ができることです。

ご家族によってそれぞれ置かれている状況は異なるため、判断も夫婦それぞれ異なるのは当然のことです。

近年ではNIPTと呼ばれる採血のみで染色体異常を確認できる新型出生前診断が開発されたり、検査技術の進歩は著しいです。今後も出生前診断の件数もさらに増加すると言われています。

産婦人科医 奥野幸彦 院長

医師監修:産婦人科医 奥野幸彦 院長

自己紹介

産婦人科医としてこれまで多くの相談を受ける中で、妊婦の方々がご出産までの約10ヶ間様々な不安な気持ちを抱えていることを知りました。そんな不安が少しでも減るように日々の治療・検査を通して妊婦の方々に向き合っていきます。

略歴

  • 1977年 大阪大学 医学部卒業
  • 1977年-1985年 大学病院・市民病院・救急病院などで勤務
  • 1986年 産婦人科・外科・内科を備える奥野病院を開院
  • 2000年 ジェンダークリニックを開院
  • 2017年 八重洲セムクリニックを開院

保有資格等

  • 日本医師会 認定産業医
  • 国際出生前診断学会会員
  • 日本産婦人科学会 認定医
  • 母体保護法指定医