出生前診断に関わる法律とは?人工妊娠中絶に関する日本の実情を解説

出生前診断に関わる法律問題としてよく取り上げられるものに刑法の「堕胎」と「母体保護法」があります。

現在、障害や疾患など胎児の状態を理由に妊娠中断をすることは法的には認められていません。しかし、日本での人工中絶手術件数は年間20万件前後にもなります。

「命の選別になるのでは?」と倫理的問題としてしばしば取り上げられる出生前診断について、法律ではどのような定義がなされているのでしょうか。今回は人工妊娠中絶と密に関わりがある出生前診断について世界と日本を比較しながら法律の観点で解説していきます。

 

出生前診断に関わる法律とは?

出生前診断を受ける本来の目的は胎児の状態を調べることで分娩や療育環境を事前に整えることです。しかし実際には、胎児の障害や疾患の有無で出産するかどうかを決めることが目的となってしまっています。まずは出生前診断や人工中絶に関係のある法律を見ていきましょう。

妊娠した女性の健康を守る母体保護法

母体保護法とは、母体の生命健康を維持することを目的とし不妊手術と人工妊娠中絶手術についての事項が定められています。平成8年よりハンセン病等の疾患を優生保護審査会の判断に基づいてに、不妊治療や人工中絶が可能であった「優生保護法」から名称が改正されました。

出生前診断で問題になる人工中絶に関して第14条には、医師会が指定する医師(指定医師)は下記の2つの理由により本人と配偶者が中絶を望む場合、同意のもとで人工中絶手術を行うことができると定められています。

  • 妊娠の継続や分娩で身体的経済的理由で母体の健康を著しく害する恐れがあるもの
  • 暴力や脅迫によって、また拒絶できない間に姦淫され妊娠してしまったもの

このように日本では母体が人工中絶の要件を満たすかの判断は指定医師によるものとされていますが、母体保護法の拡大解釈により人工中絶手術が行われている場合も少なくありません。

お腹にいる胎児の人権を守る堕胎罪

堕胎罪とは胎児を自然出産前に、人為的に胎児を母体から分離・排出する、または胎児を母胎内で殺すことを罰する罪です。胎児が死亡したかどうかは関係なく胎児を母体内で殺すことも堕胎に該当します。

しかし人工中絶手術を行う多くの方は、母体保護法の適応により堕胎罪によって処罰されることは少ないです。しかし堕胎罪には、自己堕胎罪、同意堕胎及び同致死傷罪など5つの罪があり、妊娠している本人の同意なく配偶者やパートナーなどが意図的に胎児を流産させるなどの行為は不同意堕胎罪により処罰されます。

実際に妊娠した女性にビタミン剤と称して子宮収縮剤を飲ませ流産させた男性が処罰を受けた事例もあります。

 

日本における出生前診断、人工妊娠中絶についての規定

優生保護法から母体保護法に改定された人工中絶の歴史的背景

日本では1948年の優生保護法制定により人工妊娠中絶が認められるようになりました。人工中絶が認められる要件の1つに「胎児の両親もしくはの四親等以内の親族が遺伝的異常を有すること」と定められていましたが、この考え方は優生思想に基づくとして1996年の改正により優生保護法から母体保護法に名称は変更され、同項目は削除されました。

その際、胎児に疾患や障害などの異常があった場合の中絶を認める規定(胎児条項)について、同法に含む可能性もありましたが、障害者団体などの反対もあったため倫理的問題から明記されることはありませんでした。したがって現在でも、疾患や障害など胎児の状態を理由に人工中絶を行うことは法律上は認められていません。

 

母体保護法の解釈により人工中絶手術は年間20万件に増加

胎児の状態を理由に人工中絶を行うことは法律上できませんが、出生前診断の陽性判明後に人工中絶手術を受ける方は年間約20万人います。

その理由は、母体保護法に定められている「身体的または経済的に母体の健康を著しく害する恐れがある」を適応理由として胎児の状態を確認した後に人工中絶を行うことが事実上可能だからです。

実際、遺伝子異常の陽性が判明した後に人工中断を行う割合はダウン症候群(21トリソミー)87.6%、エドワーズ症候群(18トリソミー)59.8%、パトウ症候群(13トリソミー)68.1%、全体では78.0%とかなり高い割合になっています。

人工中絶できる時期は刑法と母体保護法(第14条1項)により通常妊娠満22週未満が適応の条件と定められていますが、実際には時期以外に出生前診断を直接的に規制する法律はなく、学会による見解の改正などが行われるのみです。

日本産科婦人科学会の「出生前診断に関する見解」や日本人類遺伝学会のガイドラインなどでは、出生前診断について慎重な立場であり遺伝カウンセリングの重要性を強く主張しています。

参照URL http://www.nipt.jp/nipt_04.html  

出生前診断に対する世界各国の考え方

  • イギリス

包括的な医療保険を国が原則全て負担するイギリスでは、医療費の支出を減らすために障害児の出生を予防する目的として、出生前診断検査の開発・普及が広く行われました。イギリスでは出生前診断を受けることは妊婦さんの権利と位置ずけているため、国の事業として特的の障害を対象に出生前診断が国から提供されています。

  • フランス

1975年に妊娠中絶法が制定されたフランスでは現在、妊娠12週末までであれば人工中絶が原則認められています。

またこの妊娠週末以降であっても、出生前診断を胎児の重篤な疾患を発見するための医療行為とし、事前の遺伝カウンセリングを行った上で「母体の生命健康が害される場合」または「生まれてくる胎児に重篤な疾患がある可能性が極めて高い場合」は期間に関係なく中絶が認められています。

 

世界から見る時代に伴う倫理観の変化

1994年に開催された国際人口開発会議(ICPD/カイロ会議)の行動計画では、家族計画の捉え方として、従来の人口問題抑制の手段とするのではなく、一人一人の生活が向上するために情報やサービスにアクセスする権利であると大きく変わりましました。

国際人口開発会議での取り決め以降、世界ではセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR、性と生殖に関する健康と権利)の考え方が広く使われています。SRHRに基づき、「自分の意思が尊重されること」や「自分の体に関することを自分自身で決められる権利」などの考え方が大きく変わり始めているのです。

参考URL https://www.ippf.org/sites/default/files/2019-10/ja_ippf_technical_brief_SRHR.pdf  

出生前診断は法律より個人の解釈による判断に委ねられるのが実情

人工中絶に関する法律である「母体保護法」には胎児条項についての記載はなく、あくまでも「身体的または経済的に母体の健康を著しく害する」時のみに人工中絶は可能と定められています。

法律の記載通り、出生前診断を受ける本来の目的は「母体の生命健康を守るため」また「出生前に胎児の状態や疾患を確認することで最適な分娩方法や療育環境を検討するため」です。

しかし実際は、胎児に病気が見るかると「身体的または経済的に母体の健康を著しく害する」として、人工中絶が許容されてしまっているのが実情です。現在の日本では障害を持つ方々が安心して暮らすための支援は十分とは言えず、中絶について悩む女性やそのパートナー、ご家族を一概に責めることはできません。

したがって胎児の疾患や障害を理由に人工中絶することの是非を論じるのは難しい問題であり、明確な基準は現在においてもない状況です。人工中絶手術は一般的に母体へのリスクを考え妊娠11週までに行うことが望ましいですが、出生前診断後の継続できない妊娠の対処については、早期診断から妊娠に関わる医師による指導やカウンセリングが重要になります。

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