出生前診断を受ける割合は7.2% | 増加の背景と問題点

出生前診断(出生前検査、出生前遺伝学的検査)とは生まれてくる赤ちゃんに先天的な病気がないか確認する検査です。

最近では出生前診断を受ける割合は急激に高まり、10年で約2.4倍になっています。

しかし、「出生前診断の名前は聞いたことはあるけど、どんな人が受けているの?」「なんで出生前診断の受診件数は増えているの?」

などの疑問から自分が検査を受けるべきなのかどうかわからない方は多いと思います。

このコラムでは出生前診断の増加の背景や、出生前診断を受けることを検討している方とそうでない方の割合とその理由、また出生前診断の問題点などをご説明します。

このコラムを通じて出生前診断は自分にとって必要かぜひ一度考えてみてください。

出生前診断とは

出生前診断の受診割合の説明に入る前に、出生前診断について理解しておきましょう。

出生前診断には大きく分けて確定診断と非確定診断の2種類があります。

出生前診断の種類①確定診断

確定診断とは、染色体異常の有無をほぼ100%で検出できる高精度の検査です。検査結果は陰性または陽性と表示されます。

しかし、精度を保つ代わりに流産や破水、出血などのリスクがある検査です。

確定診断には羊水検査と絨毛検査の2つがあります。それぞれご紹介します。

  • 絨毛検査:将来胎盤になる絨毛と呼ばれる部位から胎児細胞を採取し、染色体異常を確認する検査です。
  • 羊水検査:お腹に針を刺し、羊水中の胎児細胞を採取し、染色体異常を確認する検査です。

出生前診断の種類②非確定診断

非確定診断とは染色体異常の可能性を算出することしかできませんが、リスクの少ない検査です。

検査結果は確率(Ex.◯◯分の1で染色体異常を認める)で表示される場合と陰性または陽性で表示される場合があります。

非確定検査には母体血清マーカー検査(クアトロテスト)、超音波検査、コンバインド検査、NIPTがあります。

  • 母体血清マーカー検査(クアトロテスト):母体血中の4種類の成分を指標に染色体異常を可能性を計算する血液検査です。妊娠15週目〜18週目に検査が可能です。
  • 超音波検査:超音波(エコー)を用いてNTと呼ばれる首の後ろのむくみの厚さを測定する検査です。通常妊婦健診で行われている検査とは異なり、正確にNTを測定するためには技術が必要です。
  • コンバインド検査:2種類の成分を利用する母体血清マーカー検査と超音波検査を組み合わせた検査です。組み合わせることで妊娠11週〜13週と、母体血清マーカー検査に比べて早く検査ができることが特徴です。
  • NIPT (新型出生前診断):採血のみで胎児のDNAを検査できる検査です。2013年に臨床研究として日本に導入されました。99.99%の高い精度にも関わらず、リスクが少なく、さらに妊娠初期から検査できることが特徴です。

検査方法によって検査精度や検査費用、検査が可能な時期、結果が出るまでにかかる時間、検査を実施している医療機関数など個々に違いがあります。

出生前診断の種類については別のコラムで詳しくまとめておりますのでよろしければそちらもご一緒にご覧ください。

出生前診断の種類や検査内容とは?わかりやすく解説!

わかること

出生前診断では先天異常の中でも主に染色体異常が検査対象です。

  • 21トリソミー(ダウン症候群)
  • 18トリソミー(エドワーズ症候群)
  • 13トリソミー(パトー症候群)
  • モノソミーX(ターナー症候群)
  • クラインフェルター症候群
  • 欠失、転座(染色体の一部がかけていたり、他の染色体などに付着してしまう状態)などの構造上の異常

どの染色体にどのような異常が発生するか次第で症状の程度は異なります。合併症として心臓病や、脳の疾患があったり、独特の顔つきが見られる疾患もあります。

出生前診断を受ける割合は年々増加傾向にある

出生前診断は染色体異常の有無を確認する検査です。出生前診断の受診件数と受ける割合は年々増加傾向にあります。

10年前の2006年では2006年の出生数1,092,674のうち、約2.9万件の出生前診断が実施されたため、2.6%の妊婦さんしか検査を受けていない計算になります。

対して、直近の2016年では出生数が976,978のうち、約7万件の出生前診断が実施されたため約7.16%の妊婦さんが出生前診断を受けている計算になります。

出生前診断実施数は10年で約2.4倍に増加しており、出生数は下がっているのに対して出生前診断を受ける割合は高まっていることがわかります。

出生前診断を受ける割合が増加し続けている要因

出生前診断の検査件数と検査を受ける割合が増加しているのは一体なぜでしょうか。今回は考えられる社会的背景を2つご紹介します。

出生前診断の件数が増加している原因①染色体異常の発生確率が上がっている

ダウン症などの染色体異常は妊婦さんの年齢が高くなるほど起きやすくなると言われています。

LabCorpによると、20代(25歳の妊婦)の場合、1/1082の確率でダウン症候群が発生するのに対し、40代(40歳の妊婦)の場合は1/87の確率と差は歴然です。

とりわけ高齢出産と呼ばれる30代後半(35歳の妊婦)を目処に発生率が上昇することがわかっています。

さらに、日本では女性の出産平均年齢の高齢化が進んでいます。

内閣府の調査によると、1975年の第1子出産時の平均年齢は25.7歳でした。しかし、約4年後の現在(2016年)の第1子出産時の平均年齢30.7歳と、出産平均年齢は約5.0歳高まっています。

そのため、日本全体として染色体異常の発生率が上がっていると言われており、今後も診断件数は増えていく見込みです。

出生前診断の件数が増加している原因②NIPTの導入

NIPT(新型出生前診断)とは2013年に日本国内に導入された新しい検査です。

当時主流だった母体血清マーカー検査(クアトロ検査)の検査精度が低い点、羊水検査のリスクがあるという点を克服している検査であるため、NIPTなら受けてみたいと考える妊婦さんが多くいました。

そのため、全国的に「NIPTは予約の段階で電話がつながらない」ことが常識となっており、マスコミでは「希望が殺到している」などと書かれることもありました。

この一連の報道から、妊婦さんもNIPTや出生前診断を認知するようになり、さらに出生前診断の件数は増加しました。

35歳以上の妊婦のみという年齢制限、小児科医や産婦人科医による遺伝カウンセリングができる認可施設でのみ検査が可能という実施施設の制限があるにも関わらず、5年間で58,150人も検査を受けています。

出生前診断を受けるのか受けないのか

出生前診断について当事者である妊婦さんはどのように考えているのでしょうか。

河合蘭さんが自身の著書で妊娠育児情報サイト「ベビカム」の協力のもと「再び妊娠したらNIPTを受けたいですか?」という設問でアンケートを行っています。

アンケートの結果を元に、妊婦さんたちの出生前診断に対する考え方をご紹介します。出生前診断を受けるかどうか考える際の参考にしてください。

35歳以上の母親82人に聞いた「新型出生前診断(NIPT)を受けたいですか?」

アンケートの結果は「受ける」と答えた人が15%「受けるかもしれない」と答えた人が24%、「多分受けない」と答えた人20%「受けない」と答えた人が18%「わからない」と答えた人が23%でした。

この結果から2つのことわかります。

1つ目は35歳以上の妊婦さんにとって出生前診断の賛否はほぼ同数ということです。

「受けるかもしれない」と「受ける」と前向きに出生前診断を考えている方の合計は39%、「多分受けない」と「受けない」と出生前診断に対して後ろ向きな姿勢の方の合計が38%とほぼ同数です。

2つ目は出生前診断に対して明確な意見を持っているかた3割程度しかいないことです。

自分の意見をすでに固めているは「受ける」と答えた人が15%、「受けない」と答えた人18%を合計しても、たった33%しかおらず、7割の人が未だ出生前診断について明確に答えを出せていない状況と言えます。

出生前診断を受けたい理由

受ける理由と受けない理由の自由記述欄にはさまざまな意見がありました。出生前診断を受けると答えた人の意見は以下のようなものです。

  • 「障害がある子は育てられない。」
  • 「高齢で確率が高く、自分たちの余命も長くはないので心配。」
  • 「妊娠中不安な状態でいたくない。」
  • 「自分たちの死後に上の子が負担を負うのでは。」

アンケート外のデータではありますが、以下のように考えている方もいます。「不妊治療の末に高齢出産だけれどもやっと授かった子どもだから万全の状態でお迎えしたい。」「事前に赤ちゃんの病気を把握しておくことで分娩はNICU(胎児の集中治療室)を完備している大学病院で行うなどの準備ができるため」

育てることができるかわからないという不安な気持ちと、育てるなら万全の状態で迎えたいという意見があります。

出生前診断を受けない理由

反対に出生前診断に対して、必要ないという意見もあります。

  • 「障害があってもわが子に違いない。」
  • 「障害を知っても産むので検査はいらない。」
  • 「自然に任せたい。」
  • 「授かった命、誕生を待つだけでいままで通り出産すればいい。サポートシステムを整えないで検査を発信するなんで外国の真似をしているだけとしか思えない。出産した赤ちゃんを全身全霊で受け入れることが親の役目だと思う」
  • 「障害のある子を育てることで家族が得るものもある」

出生前診断を受けない理由として、障害があっても出産することに代わりはないので自然に任せたい。また障害のある子を育てることで得るものがあるなど、覚悟の表れも感じます。

出生前診断の問題点

一方で現在、出生前診断にはいくつか問題点があり、頻繁に議論が交わされています。

出生前診断をご検討中の方には以下のことを理解し、自分なりの意見を持った状態で出生前診断を受けていただきたいと思います。

出生前診断の問題点①全ての疾患が分かるわけではない

出生前診断は特定の染色体異常であれば生まれる前に疾患の有無を確認できます。

しかし、染色体異常が原因ではない疾患もあります。先天性疾患の中でも染色体異常が原因の疾患は25%しかありません。

そのため、例えば自閉症などのさまざまな要因が重なって発症する先天異常は出生前診断の検査対象外です。

出生前診断の問題点②陽性の場合「産むか産まないか」の決断を迫られる

陽性の場合は産むか産まないかの二択を迫られ、妊婦さんに混乱を招くこともあります。

現在、染色体異常に対しての根本的な治療はなく、合併症などを治す支持療法しかできません。ご両親のサポートが必須です。

家庭の状況、夫婦が亡くなった後のサポートなど考慮しなければならない点はたくさんあります。

例え、中絶を選択したとしても必要以上に自分のことを責めてしまい、その後精神が病んでしまうケースもあります。妊婦さんにとってそれほど辛く苦しい決断です。

実際に、結果が陽性の場合79.1%の方が人工妊娠中絶を選んでおり、「出生前診断は安易な中絶を助長する」「命の選別である」という指摘する声もあります。

出典元:
毎日新聞「出生前診断、10年で2.4倍 35歳以上で25% 16年7万件」
GeneTech株式会社「どのくらいの妊婦さんが出生前診断を受けているのですか?」
内閣府「出生数・出生率の推移」
内閣府「第1部 少子化対策の現状(第1章 2)」
LabCorp 「クアトロテスト™(母体血清マーカー検査)」
NIPTコンソーシアム 「NIPTコンソーシアムの実績と報告」  
NIPTコンソーシアム 「先天性疾患と染色体疾患」
公益社団法人 日本産科婦人科学会「出生前診断」
(2019年7月4日最終閲覧)

出生前診断を受けるかどうかは話し合って決断してください

出生前診断についてはさまざな考え方があると思います。上手に利用すれば、生まれる前に赤ちゃんの状態を知っておくことで万全の体制でお迎えできたり、安心して妊娠期間を過ごすことができます。

しかし、一歩間違えればさまざまな葛藤や苦悩に悩まされてしまいます。

そうならないためにも、出生前診断や、胎児の染色体疾患について十分な情報を集め、理解した上で、自分たちの納得できる結論を出すことが大切だと思います。

決断する際に不安なことがあれば遺伝専門医や産婦人科など専門的な知識を持つ医師などに相談してみると良いと思います。

産婦人科医 奥野幸彦 院長

医師監修:産婦人科医 奥野幸彦 院長

自己紹介

産婦人科医としてこれまで多くの相談を受ける中で、妊婦の方々がご出産までの約10ヶ間様々な不安な気持ちを抱えていることを知りました。そんな不安が少しでも減るように日々の治療・検査を通して妊婦の方々に向き合っていきます。

略歴

  • 1977年 大阪大学 医学部卒業
  • 1977年-1985年 大学病院・市民病院・救急病院などで勤務
  • 1986年 産婦人科・外科・内科を備える奥野病院を開院
  • 2000年 ジェンダークリニックを開院
  • 2017年 八重洲セムクリニックを開院

保有資格等

  • 日本医師会 認定産業医
  • 国際出生前診断学会会員
  • 日本産婦人科学会 認定医
  • 母体保護法指定医