遺伝カウンセリングとは?出生前診断を受ける前に受診するメリット

皆さんは「遺伝カウンセリング」を知っていますか?

遺伝カウンセリングとは、遺伝に関する悩みや不安を取り除き、妊婦さんが自発的な選択ができることを目的に行うカウンセリングです。

遺伝カウンセリングは、出生前診断(出生前検査、出生前遺伝学的検査)を受ける前に受診する場合が多いです。

出生前診断は「命の選別」など倫理的な問題があると指摘されていたり、検査でわかる疾患が限られていたりと、知識なしで受けると解釈次第で大きな問題に繋がってしまう恐れがあるからです。

このコラムでは「遺伝カウンセリングとは何か」「遺伝カウンセリングの内容」について詳しく説明していきたいと思います。

子どもの出産を控え、出生前診断や、遺伝カウンセリングの受診を検討されている方はぜひご覧ください。

遺伝カウンセリングの目的

遺伝カウンセリングは遺伝学にまつわる知識をわかりやすくお伝えすることで、自分の力で医療技術や医学情報を利用して問題を解決して行けるようにサポートすることにあります。

重要な点として、押さえておいて欲しいのが、遺伝カウンセリングはあくまで「自主的な意思決定を促すもの」であるという点です。

遺伝カウンセリング・出生前診断に関するガイドラインによると、遺伝カウンセラーは遺伝カウンセリングを行う際、以下の点に注意する必要があります。

クライアント及びその家族は知る権利と共にそれを拒否する権利(知りたくない権利)も有しており、いずれも尊重されなければならない。
よって診療及び種々の生体試料を用いた検査(以下 診断検査という)は、それを受ける者(以下 被検者という)の自主性に基づいた意志決定に従って行われ、この自己決定についてはカウンセラーの強い示唆もしくは指導のもとでなされることのないように配慮する。
出典元:
遺伝カウンセリング・出生前診断に関するガイドライン | 日本人類遺伝学会
(2019年7月29日最終閲覧)

つまり、自発的な意思決定を行うために、カウンセラーは「出生前診断を受けるべき」であったり「出生前診断は受けるべきではない」などの一定の思想を押し付けることはありません。

そのため、安心してカウンセリングを受けることができます。

出典元:
遺伝カウンセラーとは|遺伝子診療支援・遺伝カウンセリング分野|東北メディカル・メガバンク機構
(2019年7月29日最終閲覧)

出生前診断を受ける前に遺伝カウンセリングを受診する理由

出生前診断とは、赤ちゃんが生まれる前に病気や障害などの可能性があるか確認する検査です。

事前に赤ちゃんの状態を知っておくことで、子どもを迎える心構えができたり、治療や福祉制度を利用する準備ができたりと、さまざまなメリットがあります。

一方で、事前に知ることはデメリットをもたらすこともあります。

出生前診断における倫理的問題点や、染色体異常そのものについて理解が浅いことで、妊婦さんたちが混乱したり、安易な中絶、障害をお持ちの個人を冒涜することに繋がりかねません。

そのような事態を防ぐため、遺伝カウンセリングで医学的な知識や、サポート制度などどの知識をつけ、出生前診断について自分たちなりの考え方を持っておく必要があります。

遺伝カウンセリングとは

遺伝カウンセリングとは、豊富な遺伝の知識を持ったカウンセラーが「自主的な意思決定を促す」ために行うカウンセリングです。

遺伝カウンセリングを行うカウンセラーは誰なのか、カウンセリングにかかる費用はいくらなのか、カウンセリングの内容をご紹介します。

遺伝カウンセリングを担当するカウンセラーについて

遺伝カウンセリングを行うのは、「臨床遺伝専門医」か「遺伝カウンセラー」の資格を持った遺伝学の専門家です。

これらの資格を得るためには厳しい条件があります。

臨床遺伝専門医になるには、年に1回ある試験を受けて、合格する必要があります。

試験を受けるにも以下のような条件があります。

1) 継続して3年以上、日本人類遺伝学会あるいは日本遺伝カウンセリング学会の会員であること
2) 日本専門医機構の定める基本的領域の学会の専門医(認定医) であること
3) 指導責任医あるいは指導医の指導のもと、臨床遺伝の研修を3年以上行い、遺伝カウンセリングを含む遺伝医療の実践経験があること
4) 遺伝医学に関係した学術活動(論文発表、学会発表等) を行っていること
5) 臨床遺伝専門医到達目標に記載されている能力を有すること
出典元:
臨床遺伝専門医制度委員会
(2019年7月29日最終閲覧)

遺伝カウンセラーになるためには、遺伝カウンセラーの認定試験に合格する必要があります。

受験資格を得るには、認定養成課程を設置した大学院を終了することが必要です。

このように、遺伝カウンセリングを行なうカウンセラーは、試験に合格した人のみであるため、専門的な知識を有しています。

遺伝カウンセリングの費用

遺伝カウンセリングは原則として、自費診療です。

施設ごとに価格が設定されていますが、日本遺伝カウンセリング協会によると、基本的に5,000円〜10,000円程度の施設が多いようです。

しかし、特定の疾患に関しての検査を実施した後の遺伝カウンセリングに関しては、保険が適用される場合もあります。

そのため、自分が受診する施設のカウンセリング料はいくらなのか、保険適用があるのかは施設に問い合わせてみましょう。

また、国立成育医療研究センターのように、カウンセリング料とは別に、初診料がかかる場合もあります。

出典元:
検査前の遺伝カウンセリング料(初診料) 約 10,000 円
結果開示時の遺伝カウンセリング料(再診料) 約 6,000 円
周産期遺伝外来 | 国立成育医療研究センター
学術集会 | 日本遺伝カウンセリング学会
(2019年7月29日最終閲覧)

遺伝カウンセリングの内容

遺伝カウンセリングでは、一体どのような内容を教えてもらえるのでしょうか。

日本遺伝カウンセリング学会の見解によると、遺伝カウンセリングの内容は以下のようなものです。

出生前遺伝学的検査に共通する遺伝カウンセリングの内容として、検査の適応、検査の限界、心配する疾患(頻度、病態、サポート体制)、具体的な検査内容、倫理的な問題点などを十分に説明する。 出典元:
出生前遺伝カウンセリングに関する提言 日本遺伝カウンセリング学会
(2019年7月29日最終閲覧)

この章では、上記の提言で触れられている遺伝カウンセリングの内容を詳しく説明していきます。

疾患について

染色体はお母さんとお父さんの遺伝情報を半分ずつ受け取り、通常2本1対で存在しています。

卵子の老化や、両親の染色体の形(保因者)などの影響で本数や形に異常が発生することが染色体異常です。

どのカップルからも、先天性異常児が生まれる可能性は3〜5%の確率で存在します。

出生前診断でわかる異常は以下の染色体異常が挙げられます。

  • 21トリソミー:21番染色体が3本存在する染色体異常、ダウン症候群
  • 18トリソミー:18番染色体が3本存在する染色体異常、エドワーズ症候群
  • 13トリソミー:13番染色体が3本存在する染色体異常、パトー症候群
  • モノソミーX:性染色体XXがXになる染色体異常、ターナー症候群
  • クラインフェルター症候群:性染色体XYがXXYになる染色体異常
  • 欠失:染色体の一部がかけてしまう異常
  • 転座:染色体の一部が切断されて、同じ染色体または別の染色体に付着してしまう異常
  • どの染色体に、どのような異常が発生するかなどによって、発症する合併症は異なります。

    倫理的な問題

    出生前診断には倫理的な問題があると指摘されています。

    例えば、「安易な人工妊娠中絶につながる」「障害をお持ちの方の生きる権利の冒涜」「命の選別」などの意見です。

    実際に、新型出生前診断を受診された妊婦さんの中で、9割以上が中絶を選択しているという事実もあります。

    そこから転じて、障害を持っている方の生きる権利を傷つけたり、命の選別であるという意見があります。

    とはいえ、妊婦さんのご家庭の事情はさまざまです。

    中には第一子がダウン症を患っていたり、両親の介護などの理由で、育てることが難しかったり、ご夫婦が亡くなった後、子どもの面倒を見ることができないなど理由で、産むことを諦めるしかなかったという声もあります。

    個別の出生前遺伝学的検査における具体的な遺伝カウンセリング内容について

    出生前遺伝カウンセリングに関する提言の中には、個別の出生前遺伝学的検査について、具体的なカウンセリング内容を示しています。

    検査それぞれには留意すべき点が異なるからです。

    この章では、それぞれの検査で留意するべき点についてご説明していきます。

    羊水検査、絨毛検査を受ける際の遺伝カウンセリング内容

    羊水検査と絨毛検査については以下のような点の説明があります。

    出典元:
    ●倫理的及び社会的問題を包含していることに留意し、それらをふまえて、解説に記す内容を情報提供する。 出生前遺伝カウンセリングに関する提言 日本遺伝カウンセリング学会

    (2019年7月29日最終閲覧)

    羊水検査や絨毛検査は、羊水と絨毛の中に含まれている胎児細胞を利用して染色体異常を検出する検査です。

    他の出生前診断と異なり、ほぼ100%と高い精度で検査ができますが、その代わり、羊水や絨毛を採取する際に、穿刺(お腹に針を刺す)を行う影響で破水や流産などのリスクが存在します。

    絨毛検査の場合、妊娠11週〜14週で検査が行われ、検査結果がわかるまでに約2週間かかります。

    膣から絨毛を採取した場合、流産率は1〜3%と高く、母体組織の混入、胎盤性モザイク(異常な染色体と、正常な染色体の両方が含まれていること)による影響という検査の限界も存在します。

    羊水検査の場合、妊娠15週〜16週以降に検査が行われ、検査結果がわかるまでに約2週間かかります。

    流産率は0.3%ほどと言われています。

    母体血清マーカー検査、コンバインド検査、超音波検査のカウンセリング内容

    これらの診断に関しては、4点の説明があります。

    ●通常の妊婦健診として行う検査ではないことを認識する。

    妊婦健診でも、妊娠初期から血液検査や超音波検査が行われているため、間違いやすいですが、全く別の検査です。出生前診断は希望者のみが検査を受けている状況です。

    ●出生前染色体検査の確定検査を実施するか否かを判断するためのトリソミーを対象とした非確定検査 (スクリーニング検査)であり、その結果のみを用いて染色体疾患の診断をしてはならない。確定診断には侵襲的検査を要する。
    ●検査の実施と結果の説明は基準に則って行い、その後の精査や侵襲検査の選択肢を提示する。
    ●検査の実施と結果の説明は基準に則って行い、その後の精査や侵襲検査の選択肢を提示する。疾患リスクが高いと判断された場合に確定検査を施行しないと染色体正常を染色体異常と誤認する可能性がある。

    この3つの検査は「非確定診断」と呼ばれる検査です。これらの検査精度は高くても80%〜83%であるため、この検査だけでは染色体異常の有無を確定することはできません。

    また、検査結果が「陰性」または「陽性」ではなく、確率で表示されるため、結果の解釈が分かれてしまいます。

    そのため、もし染色体異常の有無を確定させたいのであれば、前述の「羊水検査」「絨毛検査」を利用する必要があります。

    出典元:
    出生前遺伝カウンセリングに関する提言 日本遺伝カウンセリング学会

    (2019年7月29日最終閲覧)

    無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)を受ける際の遺伝カウンセリング内容

    無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)とは新型出生前診断とも呼ばれています。

    NIPTに関しては以下の点について説明しています。

    ●出生前染色体検査の確定検査を実施するか否かを判断するためのトリソミーを対象とした非確定検査 (スクリーニング検査)であり、その結果のみを用いて染色体疾患の診断をしてはならない。確定診断には侵襲的検査を要する。
    ●検査の実施と結果の説明は基準に則って行い、その後の精査や侵襲検査の選択肢を提示する。疾患リスクが高いと判断された場合に確定検査を施行しないと染色体正常を染色体異常と誤認する可能性がある。

    新型出生前診断は、胎児由来のDNAを遺伝子解析することで、精度は99.99%と言われています。

    しかし、染色体異常の有無を確定させることはできません。もし染色体異常の可能性を確定させたい場合は、前述の「羊水検査」または「絨毛検査」を受ける必要があります。

    ●実施施設は、施設基準、実施基準、遺伝カウンセリング体制等を整備して各施設での倫理申請、許可を得たうえで日本医学会に申請をおこない、許可されたのち、臨床研究として行う。

    現在、NIPTは日本産科婦人科学会の指針に則って検査を運用しています。

    指針では、検査対象の妊婦さんを35歳以上の高齢妊娠の方など、染色体異常の可能性が高い人のみに限定しています。

    また、認可施設と呼ばれる、上記の項目を満たした一部の医療機関でのみ検査を受けることができます。

    このように、指針には条件が存在していますので、新型出生前診断を受けることができるのか、ご自身で確認してください。

    検査を受ける前に自発的な意思決定ができるようにしておきましょう

    出生前診断を受けるためには留意する点がたくさんあります。

    一方で、適切に利用されれば、妊娠中、安心して過ごすことができたり、事前に赤ちゃんを迎えるために対応できるというメリットもあります。

    また、検査技術は進歩しており、より身近な検査になることが予想されます。

    もしそうなれば、妊婦さん全員が出生前診断の意義を理解した上で、自分なりの考えを持つということが必要になってくるでしょう。

    時間に余裕を持って、検査や先天異常についてパートナーと話し合う時間を設けましょう。

    不安なことがあれば、主治医の先生に相談するだけでなく、遺伝カウンセリングを予約し、自身の結論を出すサポートをしてもらうことをおすすめします。

    産婦人科医 奥野幸彦 院長

    医師監修:産婦人科医 奥野幸彦 院長

    自己紹介

    産婦人科医としてこれまで多くの相談を受ける中で、妊婦の方々がご出産までの約10ヶ間様々な不安な気持ちを抱えていることを知りました。そんな不安が少しでも減るように日々の治療・検査を通して妊婦の方々に向き合っていきます。

    略歴

    • 1977年 大阪大学 医学部卒業
    • 1977年-1985年 大学病院・市民病院・救急病院などで勤務
    • 1986年 産婦人科・外科・内科を備える奥野病院を開院
    • 2000年 ジェンダークリニックを開院
    • 2017年 八重洲セムクリニックを開院

    保有資格等

    • 日本医師会 認定産業医
    • 国際出生前診断学会会員
    • 日本産婦人科学会 認定医
    • 母体保護法指定医